一般的にタイは熱帯の国として知られていますが、私達が現地で養蜂に取り組んでいるのは、主にタイの北部地域で亜熱帯気候に属しています。ミャンマーやラオスと国境を接し、チベット高原を源流とするメコン川を北上すれば中国雲南省に辿り着きます。2016年1月、チェンマイ市内でも最低気温が10℃前半になり、山間部になると一桁台まで下がる日もありました。

 

 

 

 タイには3つの季節があると言われており、「乾季」(3~6月)、「雨季」(7~10月)、そして「寒季」(11~2月)です。それぞれの季節ごとにいろいろな種類の花が咲きますが、北タイは、気候が養蜂に適しているだけではなく、山間部にはまだ森林も残っており、蜜源となる植物が多いと言われています。

 ところで、ミツバチはどんな花から花ミツや花粉を集めるのでしょうか。日本国内なら、れんげ、ミカン、アカシア、菜の花などが思い浮かびます。タイの養蜂では、龍眼(ロンガン)、ライチ、ゴマ、ヒマワリ、オリーブ、ミカンなどが主な蜜源になります。変わったところでは、マンゴー、イチゴ、コーヒー、大豆、綿花などからも花ミツを集めてきます。その他、道路沿いや空き地にある、一見雑草のようにしか見えない花も立派な蜜源です。いろいろな花や野草から集められた花ミツは、多くのミツが混ざることから、一般に“百花ミツ”と呼ばれています。龍眼(ロンガン)を採蜜する期間を除いて、特にローヤルゼリーの採乳時は、この百花と呼ばれる野山の小さな花々が蜜源になります。

左上】アブラナ科の中国野菜で菜の花に似ている。菜の花のハチミツは結晶しやすい花粉を含んでいるのでクリーミー。

【右上】タイでも栽培されているデュランタ (Duranta erecta)の花ミツに集まるミツバチ。和名はハリマツリ、タイワンレンギョウ(台湾連翹)など。

【左下】ゴマのハチミツは、4~5月にかけて花が咲き、年に1回しか採れない。タイ北部のペッチャブーン県周辺がゴマの生産地として有名。ゴマの花の香りがし、くせがなくすっきりとした味わい。

【右下】タイ語で“サープスア”(Eupatorium odoratum Linn)という。葉っぱを揉んで傷口に当てると止血効果があり、タイでは薬草としても知られている。

 

 

 では、ミツバチはどうやって花を選んでいるのでしょうか。色でしょうか?香りでしょうか?ミツバチは、巣箱から半径2km圏内で花ミツと花粉を集めて来るので、当然、まず遠い場所よりも、近場の花を選びます。実は、ミツバチは効率を優先しているのです。そして数の少ない花よりも、小さくても1ヶ所にたくさん咲いている植物へ飛んでいきます。また花の種類によってミツの「甘さ」が違うので、糖度の高い花を選んでいます。よい蜜源を見つけると、8の字ダンスで仲間にその場所を知らせるのですが、太陽の位置を起点として方角を、お尻の振り方で距離を伝えるそうです。 そうすることで、ある時期に同じ種類の花ミツをたくさん集めることができるのです。

 

 花によっては、花ミツだけ、花粉だけ、両方とも採れる種類があります。花に留まっている時間が短く、すぐ近くの花に移動する場合は花粉を集めており、両足に黄色い花粉団子が見られます。またミツバチが花の上で10秒以上じっと留まって、お腹の辺りが膨らんでいる場合は、花ミツを集めています。

 それでも、体重100mg弱のミツバチ1匹が一生かけて集められるのは、ティースプーン1杯分ぐらいのハチミツなんだそうです。

 

左】スイートコーンは、風媒花(風の媒介によって受粉が行われる花)のため蜜はでないが、一度にたくさんの花がつき、大量の花粉がでる。

【右】蓮の花にミツは多くないが、花粉を目当てにミツバチが飛んでる。

現地レポート

2016年2月号


龍眼(ロンガン)の花から花ミツ(単花ミツ)を集めるミツバチ。

タイ語で“チョンプー”という果物の花。(ジャワフトモモ・RoseApple)大きさや形がちょうどピーマンに似ていて、色は透明がかった赤やピンク・薄緑色をしている。

タイ語で、“ドーク.ブアトーン”(Wild Sunflower,メキシコヒマワリの1種)といい、チェンマイ県の北にあるメーホンソーン県が有名で、11月中旬~12月初旬に多くの花を咲かせる。

アブラナ科の中国野菜で菜の花に似ている。菜の花のハチミツは結晶しやすい花粉を含んでいるのでクリーミー。